妊娠を妨げる抗精子抗体
Q:
結婚4年の34歳夫婦で、妊活を始めて1年です。夫婦ともにすべての不妊検査で問題なかったはずなのに、タイミング法を経て人工授精を6回実施しても妊娠に至りません。さらに最近、特殊な血液検査による抗精子抗体検査が陽性で、抗体が精子尾部に強度に付着しているため体外受精を勧められました。もうタイミング法や人工授精では可能性がないのでしょうか。
A:
妻の体内に抗精子抗体が存在する場合、精子が進入するとその抗体の性格により精子の頭部・頸部・尾部のいずれかまたは全体に付着して攻撃します。
精子頭部への付着は卵子に進入しにくくなる帽子を被ったようなもので、たとえ卵子に近づけても卵実質を守る透明体に抗体が多数存在するため、その先にはほぼ進めません。そのため体外受精も厳しく、卵子に精子を直接注入する顕微授精の対象となります。
精子頸部には生命維持に重要なミトコンドリアが含まれており、そこに抗体が付着すると間もなく死滅します。
また、精子の前進運動を司る尾部に抗体が付着すると、重い荷物を背負って泳がされるようなものですからほとんどの精子が溺れ死にます。まれに強靭な精子が卵子まで到達できることもありますが、力尽きて受精に至らないことが多いです。
また、抗体の力には「強度・中等度・弱度」の3段階あり、頭部・頸部・尾部全体に強度の抗体が付着すると顕微授精でも厳しい状況です。
尾部に弱度の抗体が付着している場合のみタイミング法や人工授精での可能性があり、自然治癒することもあります。