Q:抗精子抗体ってなんですか?
抗精子抗体
A:抗精子抗体は、男性と女性にどちらでも産生されることがあり、精子の活動を抑制してしまったり、凝集したり、あるいは精子の受精過程、胚の分割過程を阻害作用を示す働きがある抗体です。
しかし、抗精子抗体のすべてがこれらの作用をもっているわけではなく、抗体自体にも多様性があり、それぞれの抗精子抗体により作用が異なると考えられています。
検査法としては女性では精子不動化試験と精子凝集試験があり、男性ではimmunobeads試験があります。
精子凝集試験は簡便ですが非特異的な凝集が多くみられることがあり、不妊と関連がないこともあり普及はしておりません。
精子不動化試験は、患者血清と精子を混在させ、1時間後に精子の運動率を測定します。患者血清中での運動率を通常の血清中での運動率と比較した数値を精子不動化値(sperm immobilization value;SIV)とよび、2以上であれば抗精子抗体陽性です。
また、抗体の強さを判定する指標として精子不動化抗体価(SI50)があります。これは抗精子抗体陽性患者の血清を希釈して同様の検査を行い、運動率が対照血清における運動率の50%になる希釈段階を測定しています。簡単に言うと精子の運動率を減少させる抗体が強いかどうかを調べます。
この精子不動化抗体価(SI50)は常に一定ではなく周期的に変化するとされています。
1990年代に兵庫医科大学産科婦人科学より精子不動化抗体価(SI50)が高い場合は人工授精では妊娠せず、低い場合には妊娠するという報告がありました。
2011年の自治医科大学産婦人科の報告では、体外受精で使用する培養液に精子不動化抗体陽性患者の血清を添加すると受精率は下がり、血清の代用としてアルブミンを使用すると受精率は正常化するとのことでした。すなわち精子不動化抗体保有女性の血清中に存在する抗体は体外受精の過程で精子に結合し,受精阻害作用を発揮します。
一方、男性では射出精子を用いたimmunobeads試験があります。射出精子自身に抗精子抗体が結合し、かつ女性の性器管内で運動機能や受精機能が十分に発揮できない場合は不妊の原因となる可能性が示唆されておりますが、不妊の原因と関係のない抗体が検出される点や、精子の運動性と凝集とは無関係であるという報告もあることから現在はルーチン検査としては行われておりません。
抗精子抗体陽性の場合は人工授精へのstep upや、体外受精を考慮することが必要かもしれません。
参考文献:
・【不妊診療のすべて】総論 不妊と免疫 その基礎と臨床(解説/特集) 産婦人科治療 (0558-471X)102巻増刊 Page439-444(2011.04
・抗精子抗体および抗透明帯抗体の解析(解説) 兵庫医科大学医学会雑誌 (0385-7638)34巻1号 Page47-51(2009.12)
・受精障害ワークショップ 抗精子抗体による受精障害の予知と対策 Journal of Mammalian Ova Research (1341-7738)28巻2号 Page S18(2011.04)
・Sperm quality and its relationship to natural and assisted conception:British Fertility Society guidelines for practice. Hum Fertil (Camb). 2013;16(3):175. Epub 2013 Jul 17.