Q:うがい薬の摂取は妊娠に影響しますか?
うがい薬 の摂取は妊娠に影響しますか? という質問を患者様より多く頂きます。
大阪府の吉村知事より8月4日に新型コロナウイルス(COVID-19)対策としてポビドンヨードを含むうがい薬の使用を呼びかけた報道があり、全国的に大きくニュースとして取り上げられております。専門家などからは疑問視される意見もありますが、実際に効果はあるのでしょうか?(当院のCOVID-19対策はこちら)
実際COVID-19に対しイソジンうがい薬に含まれるヨードによる殺菌は効果があることは海外でいくつか報告されている文献はあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7341475/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7361576/
しかし、ヨードの摂取は甲状腺機能の異常をきたす可能性があります。特に不妊や流産の原因となる甲状腺疾患に「潜在性甲状腺機能低下症」とよばれる疾患があります。
これは、症状はありませんが、血液検査で血清甲状腺ホルモン(T4およびT3)濃度は正常ですが、血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度が高い状態として定義されます。いわゆる甲状腺機能低下症の予備軍と考えられます。
原因としては自己の甲状腺にダメージを与える自己抗体の影響や、感染症、腫瘍性、造影剤の使用など様々ですが、ヨードの過剰摂取が原因となることがあります。
潜在性甲状腺機能低下症は、流産の原因となることが各国のガイドラインで示されております。(ACOG2001、RCOG2011、ASRM2012、ESHRE2017、米国甲状腺ガイドライン2017)
https://academic.oup.com/jcem/article/95/9/E44/2835150
体外受精を受けている女性の妊娠成績は、TSHが2.5 mIU/Lより高い場合に悪い可能性があることが報告されております。
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(06)00365-6/fulltext
また、甲状腺機能低下症は排卵障害を引き起こす可能性が示唆されております。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09513590.2016.1183193
また、妊娠中に母親がヨードを過剰摂取すると、胎児の甲状腺腫と甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8640469/
ヨウ素の推奨される最小の毎日の摂取量は、妊娠していない成人では150 μg、妊娠中の女性では220から250 μg、授乳中の女性では290 μgとされております。(WHOガイドライン2017 )
では実際イソジンでのうがいではヨードはどれくらい吸収されるのでしょうか?
2006年の東京女子医科大による検討では、うがい薬イソジンガーグルで1日3回のうがい(原液4mlを60rri且に希釈して15秒x3回)を行った患者18人のうがい前後の尿中ヨード排泄量を計測したところ、ヨードは約4mg吸収されることが示唆されております。これは推奨量をはるかに超えております。
(佐藤 幹二 Povidone-iodine含嗽剤の長期使用により誘発された粘液水腫の一例 添付書どおりに含嗽をした際の尿中ヨード排泄量の検討:日本内分泌学会雑誌2006年 82巻2号 Page297)
過剰な血清ヨウ化物の摂取はヨウ化物の組織化を阻害し、それによりホルモン生合成を減少させます。この現象は、Wolff-Chaikoff効果と呼びます。これによりTSHは上昇し甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があります。
https://en.wikipedia.org/wiki/Wolff%E2%80%93Chaikoff_effect
しかしこの現象は一過性であり摂取を減らせば2-4週間で正常値に戻ることが知られております。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC289393/
これらのことから、イソジンうがい薬使用による過剰なヨード摂取は控えた方がよいと考えられます。
今回の報道で、多くの方がイソジンでのうがいに興味を持たれているかもしれません。
たしかにウイルス感染対策として効果はあるかもしれませんが、妊娠を考えている方や、妊娠をしている方には頻回のイソジンでのうがいは推奨できません。