不妊治療中にカフェインは摂取してよいのでしょうか?
不妊治療中にカフェインは摂取してよいかという質問をよく頂きます。
カフェインはコーヒー、お茶、ソフトドリンク(特にコーラ含有飲料とエナジードリンク)、チョコレート等に含まれています。
カフェイン分子は摂取すると即座に吸収され、15〜45分以内に血中のピークに達します。カフェインには、中枢神経系の刺激、カテコールアミンの分泌の増加、平滑筋の弛緩、心拍数の刺激など、多くの生物学的効果があります。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/1487123
ではカフェインは不妊治療や妊娠に対してどのような影響があるのでしょうか?
2007~2015年にアメリカのマサチューセッツ総合病院で実施されたEARTH(The Environment And Reproductive Health)研究では、体外受精開始前の女性患者にアンケートを実施してカフェイン摂取と妊娠について調査しました。
その結果体外受精開始前のカフェイン1日約50mg~約600mgまでの摂取量と採卵、受精、胚形成、着床の成績に差はありませんでした。
https://academic.oup.com/humrep/article/32/9/1846/4079651
2014~2016年のイタリアでの研究でも同じく体外受精開始前にアンケートを実施してカフェイン摂取と妊娠について調査しました。その結果、カフェイン摂取量(女性0~480mg/日、男性0~560mg/日)による体外受精による妊娠率の差はありませんでした。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6115800/
2010年にデンマークで7574人(1963~1998年に登録)の不妊治療中の患者のアンケート結果および不妊治療歴から、コーヒー、紅茶によるカフェイン摂取と不妊の関係を調査しました。その結果カフェイン摂取量580mgまでは不妊に関連はしないという結果でした。
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/aogs.13307
2011~2015年のデンマークでの1708人の検討では、治療開始前にアンケートを実施し、カフェイン摂取と人工授精、体外受精の成績を調査しました。コーヒー1日1~5杯での妊娠成績の変化はありませんでした。
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(19)30287-0/fulltext
カフェインと流産リスクに関しては、妊娠初期の母親のカフェイン消費量が100 mg /日増加するごとに自然流産のリスクが14%増加するという報告があります。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10654-014-9944-x
大規模な調査が2018年にアメリカで実施されました。1989年の調査開始時に24〜44歳であった116480人の女性看護師の継続的な観察研究であるNurses’Health Study II(NHS2)のデータを使用し、妊娠前のカフェイン摂取量と流産の関係を調べました。
その結果、妊娠前に1日あたり400mg以上のカフェイン、4人分以上のコーヒーを摂取した女性は、何も摂取しなかった女性と比較して、流産の絶対リスクが3.6%高い結果でした。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5332346/
2000年以降に実施された母体のカフェイン消費と流産に関する9つの観察研究をまとめた文献では、全体的なリスクの増加率として表されるオッズ比はある研究では32%(95%CI 1.24から1.40)、別の研究では36%(95%CI 1.29から1.45)でした。
また、死産のリスクは1日あたり100 mgのカフェインあたりの9%とされています。
https://ebm.bmj.com/content/early/2020/09/01/bmjebm-2020-111432.long
これらの結果から、不妊治療の成績にはカフェイン摂取量はあまり影響を及ぼさないかもしれませんが、流産には影響を及ぼす可能性があります。
これらの報告を踏まえ、各国ではカフェイン摂取の推奨量を設定しています。
世界保健機関(WHO)ではコーヒー1日3-4杯まで
欧州食品安全機関(EFSA)ではコーヒー1日2杯 カフェイン200mgまで
カナダではコーヒー1日2杯 カフェイン300mgまで、エナジードリンクは2本まで
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/caffeine.html
したがって各国が制限するように妊娠を希望する場合にはカフェインの過剰摂取は控えることを推奨します。
具体的にはコーヒーは1日2-3杯まで、エナジードリンクは1日1本に制限することを推奨します。
各飲料のカフェイン量は農林水産省を参照にしてください。