Q:アルコール摂取は不妊のリスクになりますか?
アルコール摂取と生殖能力の関係については、結論的には中程度のアルコール摂取量はおそらく生殖能力に悪影響を及ぼさない可能性がありますが、高レベルのアルコール摂取は悪影響を及ぼす可能性があります。
具体的には、英国での研究では男性は1週間あたり20ユニット以上のアルコールを摂取すると妊娠までの期間が長引くという報告があります。
ユニットという単位は英国でアルコール量を表す単位です。アルコール度数5%、350mlの缶ビールなら1缶あたり1.75ユニットとなり、8缶で14ユニットという計算になります。
750ml入りのボトルワイン(13.5%)は約10ユニット、175mlのグラスワインでは約6杯分で14ユニットになります。ウィスキー(40%)で25ml、焼酎(25%)で40ml、日本酒(15%)で67mlが1ユニットです。
一方、女性では有意ではありませんが飲酒をしない女性に比べてユニット数関係なく飲酒をする女性の方が妊娠までにかかる時間は長くなる傾向があるとの報告でした。
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(03)02846-2/fulltext#TABLE3
デンマークでの研究では、週に7杯以上飲む場合女性は1杯未満しか飲まない女性に比べて約2倍の不妊リスクがあると報告されています。
https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1034/j.1600-0412.2003.00164.x
アメリカのボストン州で行われた研究では、体外受精におけるアルコールの影響としては、週に4杯(約50gアルコール)のアルコール飲料を飲む場合は、IVFの出生率の低下と関連していたという報告があります。
週に4杯以上飲む女性と男性は、4杯未満のカップルと比較して受精障害の確率が48%高く、週に1〜7杯飲酒している女性では、着床障害のリスクが18%高く、特に白ワインを毎週飲む女性は、着床障害のリスクが22%高いという結果でした。
また、白ワインを毎週飲む女性は、白ワインを飲まない人と比較して、採卵で回収される卵母細胞が有意に少ない結果でした。
また、毎日ビールを飲む男性は、精子の運動率低下のリスクが27%高くなり、白ワインを毎週使用すると精子の形態異常のリスクが43%増加し、赤ワインを毎週使用すると精子濃度低下のリスクが23%増加しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4487775/
一方、さらなるデンマークの研究では、人工授精も体外受精も低から中程度の平均週アルコール摂取量(1週間に1-7杯程度まで)では治療サイクル後の臨床妊娠または出産率は大きく変化はないと結論付けています。
https://academic-oup-com.kras1.lib.keio.ac.jp/humrep/article/34/7/1334/5523128
女性のアルコールによる生殖医能力への有害な影響のメカニズムは知られていません。マウスでの研究は、アルコールが卵胞の成長に影響を及ぼし、受精卵の分割を阻害し、染色体の分離を妨害し、胚の変性を促進し、着床または胚の孵化を損なう可能性があることを示しています。また、理論的にはアルコールが卵胞を育てるホルモンであるゴナドトロピンの肝代謝や排泄に影響を与えた場合、卵胞の成長とそれに続くエストロゲンレベルが変化する可能性があることが示唆されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4487775/
男性のアルコール乱用がテストステロン産生の障害と精巣萎縮を引き起こす可能性があります。進行したアルコール性肝硬変の男性の72%が性欲減退と性的能力の低下および精巣委縮を示しました。アルコールは精巣だけでなく視床下部・下垂体にも作用しLH等テストステロンを増加させるホルモンを減少させることも報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6761906/
このようにアルコールは男女ともに不妊のリスクとなる可能性があります。
しかし日頃飲酒の習慣がある場合は全く飲酒をしないということがストレスとなり、さらに不妊のリスクにつながる可能性もあります。したがって適量の飲酒は許容できると考えております。
お酒は適度な量(週に4杯程度まで)は許容範囲と考えられますが、毎日飲酒したり、一度に大量に飲酒することはお勧めできません。